メドックの4つの村

 世界中の人を虜にするワインを生み出しているボルドー地方。ボルドー地方はジロンド河を隔てて右岸と左岸に分けられ、右岸ではメルローを主体とした柔らかく滑らかな女性的ワインが、左岸ではカベルネ・ソーヴィニョンを主体とした骨格的で強靭な男性的ワインが造られることで有名です。
 一般的な知識としては、「ボルドー地方ではタンニンのあるしっかりとしたワインが造られており、左岸と右岸でそれぞれ上記のような特徴がある」というところまで知っていれば充分といえるかもしれません。
 しかし、今回の記事ではもう少し先まで掘り下げて、ボルドー左岸で特に有名なメドックの4つの村について、その特徴を紹介したいと思います。

メドック地区について

source:https://www.bordeauxwinetrip.fr

 ボルドー地方は世界的に有名なワイン産地ですが、案外、ボルドー市以外は川沿いに少しレントランがある他は、ひたすらブドウ畑の田園風景が続き、メドック地区を車で走っていても、何も知らない人はただの田舎だと感じるだけかもしれません。
 メドック地区はボルドー市の北側、ジロンド河左岸に広がっており、上の簡単な地図の紫の部分に位置しています。
 ブドウ畑は、主としてジロンド河沿いの小高い丘に広がっており、大西洋側の松林によって潮風から守られています。また、土壌はピレネー山脈から流れてくる砂礫によって、水はけが良い、ブドウ畑にとって理想的なものとなっています。
 そして上述のとおり、カベルネ・ソーヴィニョンを中心とした、骨太でタニック、長期熟成可能なワインが造られています。

AOC(Appellation d’Origine Controlee)

 この地区には、メドック及びオー・メドックの地区AOCの他に、固有の村名AOC(原産地呼称)を持つ村が6つあります。その中でも、特に世界のトップワインを生み出している有名なものが、サンテステフ、ポイヤック、マルゴー、サンジュリアンの4つです。

地区AOC
  メドック Médoc
  オー・メドック Hout-Médoc
村名AOC
  サンテステフ St-Estéphe
  ポイヤック Pauillac
  サンジュリアン St-Julien
  リストラック・メドック Listrac-Médoc
  モーリス Moulis
  マルゴー Margaux

格付け

 メドックのワインで有名なのは、1855年にナポレオン3世の下で行われた格付けです。
 この格付けについては、諸説あると思いますが、下のリンクの葉山考太郎さんの記事などでは、当時の一定の取引価格に基づいていると説明されており、少なくとも現在のワインの優劣をそのまま決めているとまではいえないと言われています。

 しかし、格付けはメドックのワインにとって切り離せないものとなっています。実際、この格付けによって生まれるヒエラルキー的な構造をもってして、ボルドーワインが世界に抜きんでた地域であると評価する評論家もいます。そして現在でも、各シャトーはその威信をかけて絶え間ない努力により、その品質を維持・向上させています

日本で一番詳しい「1855年メドック格付け」の裏側

 現在、61シャトー これらの格付けワインはメドックだけでなく、ボルドーワイン全体の象徴的存在となっており、世界中のワインラヴァーを惹きつけて止みません。

 では、その格付けワインを中心に優良なワインがひしめく4つの村について見ていきます。

サンテステフ St-Estephe

 サンテステフは、メドックの有名な4つの村の中で最北、ジロンド河の下流に位置しています。
 ジロンド河が運ぶ砂利混じりの土は下流に行くにつれて少なくなり、土壌は粘土質の割合が高くなります。したがって、上流のマルゴーでは粘土質はほとんどなく、サンテステフには軽い表土の下層に粘土質と石灰質が混じっており、この粘土質の土壌によって、水はけがマルゴーなどと比較すると悪くなっています。
 この土壌の影響もあり、サンテステフで作られるワインは、ボルドーの中でも一般的に色濃く、強靭で力強く、また長熟です。ポイヤックなどのワインと比べて、武骨なイメージで表現されることもあり、例えば、コス・デストゥルネルモンローズといった代表的なサンテステフのワインは、いずれも色濃く、長期熟成能力を有しています。
 また、サンテステフには、シャトー・メイネイシャトー・ソシアンド・マレのように格付けワインを凌駕するほど素晴らしいクリュ・ブルジョワのワインが点在しています。

ポイヤック Pauillac

 次のサンジュリアンと同様、小石混じりの砂利質の水はけがよい土壌です。ポイヤックのワインも、タンニンがしっかりしていて長期熟成に向きますが、サンテステフと比較してより洗練されたワインを生み出す土壌であると評価されています。
 ポイヤックには、1855年の格付けで1級を獲得した5大シャトーのうちの3つ、ラフィット、ラトゥール、ムートン・ロートシルトがそろっており、これだけでもボルドーで最も恵まれたテロワールを持つ村であるといえるでしょう。
 そして、これら3つのワインもまた、別々の特徴を兼ね備えています。例えば、北端に位置するラトゥールには、サンテステフの特徴である堅牢さがあり、逆にラフィットにはサンジュリアンに近い特徴を持っています。また、ムートン・ロートシルトは、力強く、濃い色合いで、熟した果実の風味を持っており、エキゾチックです。これらのワインには長期の熟成が必要であるとされ、少なくとも10年以上の歳月を経て飲み頃が始まります。
 さらに、ポイヤックには、格付け2級の中でもスーパーセカンドと呼ばれるピション・ラランドピション・ロングヴィル・バロン、5級であるにも関わらずその品質が注目されるランシュ・バージュ、そして、パーカー100点を獲得したポンテ・カネなどのスターワインがひしめいており、名実ともにボルドーナンバーワンの村ということができます。

サンジュリアン St-Julien

 サンジュリアンは小さな村で、ポイヤックより大きな石が混じった粘土質や石灰質の層を砂利質が覆う土壌を有していますが、ポイヤックほどの厚みはありません。ここで生まれるワインは、サンテステフと比較してタンニンが滑らかで豊満です。
 サンジュリアンの代表的なワインといえば、ポイヤックとの境界に位置する3つのレオヴィルでしょう。特に、スーパーセカンドの筆頭とも言われるレオヴィル・ラスカーズは、1級に近い値段で取引されています。
 このほか、シャトー・グリュオ・ラローズ、ラグランジュ、ヴェイシュベル、ブラネール・デュクリュ、デュクリュ・ボーカイユなど、内陸から南部に位置する実力派シャトーが存在します。

マルゴー  Margaux

 マルゴーはメドック地区の中で最南に位置し、そのワインは優美で柔らかく繊細、香り豊かで精妙なものであると評価されています。サンテステフ、ポイヤック、サンジュリアンは隣接していますが、マルゴーは少し離れて南に位置します。
 土壌も薄い表土の下にある砂利層が厚く、ある意味水はけが良すぎて、不作の年にはやせたワインができやすい傾向にあるといえます。
 もちろんこの村の代表的なワインはシャトー・マルゴーであり、やはり5大シャトーの中でも最も女性的、ふくよかでかつエレガントと言われ、マルゴー村の特徴を大いに示しています。しかし、このシャトー・マルゴーも、カベルネ・ソーヴィニョンの比率が高く、ワイン全体で見ればやはり強靭で骨格のあるワインであるというべきであると考えます。
 また、マルゴー村には3級のシャトー・パルメが、他の追随を許さず、シャトー・マルゴーに挑戦する絶対的な地位を確保しており、さらにはメルロー比率を高めるといった挑戦をしています。
 そして、シャトーラスコンプ、ブラーヌ・カントナック、そして2つのローザンという2級ワインも有しています。また、マルゴー南部には、シャトー・ジスクール、カルトメルル、ラ・ラギューヌといった有名なシャトーが続きます。

まとめ

 ボルドーについての知識は深まったでしょうか。簡単におさらいをすると、次のようになります。

① サンテステフは特にタンニンが強く、強靭で武骨
② ポイヤックはナンバー1の品質で、洗練されたワインを生むテロワール
③ サンジュリアンは豊満で滑らか
④ マルゴーは繊細でエレガントな女性的ワイン

 ワインによって、またヴィンテージによって違いはありますが、このような違いを肌で感じれるようになれば、ワイン・ラヴァーを通り越してワイン狂と言われるかもしれませんね!
 以上、4つの村の紹介でした。